食習慣から、社員のウェルビーイングを考えよう──「日々の〈食事〉から向き合う健康経営」
いまや企業における「健康経営」というキーワードはすっかり定着した感があります。しかしその重要さは理解されつつも、どのような観点で導入したり、施策を運用すべきなのか悩ましい企業も多いのではないでしょうか。人間本来の「食」の大事さに立ち返り、長きにわたって社員が健康に働く・活動するために重要な観点から見つめ直してみましょう。
清水紗穂里さん(てんとうむしばたけ)と関奈央弥さん(tangobar)、そして田中槙太朗さん(KISSUIEN Stay & Food)による体験プログラムをご紹介します。
健康経営には、日々の習慣の見直しが必要?
昨今、企業経営においてすっかり定着した感のある「健康経営」。社員や従業員の健康増進の取り組みを「投資」と捉える新たな経営手法です。
総人口の減少とともに高齢化はますます進み、慢性的な人手不足のなかで企業は長く安心して働ける環境づくりが求められています。その効果も医療コストの削減ばかりでなく、従業員の生産性や帰属意識の向上、ブランド価値向上に伴うリクルート効果や金融機関・投資家からの評価向上など、投資に対してさまざまなリターンがあるとされています。
しかし、一方で健康経営は成果が見えにくく、その導入に悩んでいる企業は少なくありません。企業としてどのような方針・施策・指標のもとで、社員の健康を維持していけばよいのでしょうか。
経済産業省によると健康経営が目指すべき到達点のひとつは「予防や健康管理」とされています。社会として早期診断や治療のしくみ、介護予防や生活支援などが求められる一方で、企業あるいは個々のレベルで健康を維持していくためには、結局のところ日々の積み重ね、生活習慣を見直すことが重要になるでしょう。
特に、人間の健康を司る基本的な営みが「食」です。乱れた食生活、栄養の偏りが続いてしまうと、心身の不調を招きやすくなります。
企業の経営においてもまた、従業員をはじめとするステークホルダーの日々の「食事」のあり方は、中長期的に見ると「企業が健康である」ための基盤となるでしょう。特に、食や健康、暮らしを事業領域として価値を提供している企業は、より自ら率先して体現することが望ましい。そうした投資が、さらなる社会的評判・信用をもたらすはずです。
実は、京丹後は「長寿のまち」として、近年研究者などから注目を集めています。100歳以上の人口が全国平均の3倍以上とも言われ、ギネスブックに掲載されていた長寿者が居たことでも知られています。
京丹後は、海があり山があり、豊かな自然に恵まれたエリアです。食材の宝庫であり、食に携わるユニークな生産者・事業者も多い。本プログラムでは、そんな京丹後を訪ね、個人がふだんの「食」を見つめ直すきっかけを得るとともに、企業として社員やその家族の健康増進を図るための学びや体験を提供します。
京丹後の代表的な有機農園「てんとうむしばたけ」による農場体験とオーガニック野菜や発酵食品についての学び、そして「tangobar」による生産者の訪問と腸内細菌についての学び、さらにはホテル「KISSUIEN Stay & Food」にて京丹後の食材をふんだんに使ったディナーをいただきます。
【体験型研修プログラム「日々の“食事”から向き合う健康経営」】
■想定する対象者・グループ
京丹後市の豊かな食の素材に直に触れながら、従業員や顧客の「健康」「食」との向き合い方を学び、考えるための研修です。
・「健康経営」の導入企業
・「健康経営」の実践効果を高めたい企業、施策を改善したい企業
・「健康経営」の成果の見える化、指標づくりを行いたい方
・社員の健康増進にあたり、日々の「食事」から見直したいという問題意識をもった担当部署
・「食」や「健康」に関する事業を営み、社員自身が企業価値を体現した食生活・健康状態であってほしいと考える企業の研修として
■行程(参考)
-8:00 集合・プログラム説明(てんとうむしばたけ)
-8:15 畑の見学・収穫体験・商品づくり体験(〃)
-10:00 発酵食についての体験・オリエンテーション(〃)
-12:00 オーガニックランチ・ラップアップ(Organic Cafe てんとうむしばたけ)
-13:30 移動
-14:00 生産者訪問(日本海牧場ほか)
-15:30 移動
-16:00 腸内細菌の基礎知識講座(KISSUIEN Stay & Food)
-17:30 京丹後の食材を堪能するディナー(〃)
-20:00 宿泊(〃)
※本プログラムは終日プランです
※ご要望に応じてプログラム内容、所要時間は調整可能です
※宿泊の場合は、別途費用を算出いたします
■最小/最大催行人数
4〜10名を想定
■参考価格
17,000円〜/1名あたり(宿泊・翌朝の朝食など別途)
※5名以上でのご参加の場合は、要相談となります
■開催(集合)場所
京都府京丹後市弥栄町黒部441
てんとうむしばたけ(ビオ・ラビッツ株式会社)
■お問い合わせ
丹後リビングラボよりお問い合わせください
オーガニック農園で、採れたての野菜に触れ「食べること」を考え直す
長年、京丹後の地で有機農業を営んできた「てんとうむしばたけ」。
代表の梅本修さんが、息子をはじめ子どもの世代に対してほんとうに体に良いものを摂ってほしいと有機農業をはじめ、今では地元のみならず全国各地にファンを抱える、京丹後を代表する農場です。
近年では、カフェをオープンしたり、農業体験のできる観光農園としての機会も提供するなど、開かれた農場として生活者との接点を増やしつつあります。
本プログラムのスタートは「てんとうむしばたけ」から。
ここでは、農業体験、商品づくり、発酵などの食品についての学び、梅本さんをはじめとするスタッフとの対話などを行います(テーマ、ニーズなどに合わせて内容調整が可能)。
到着後オリエンテーションを行い、すぐに長靴に履き替えるなどの準備を済ませたら、早速すこし離れた農場へと車で移動。野菜の収穫や水やりなどの体験を行います。担当の清水紗穂里さんを中心にスタッフがレクチャーやサポートをしてくれます。
てんとうむしばたけでは、落ち葉や刈り草を集めて土を育て、長い年月をかけて堆肥化。微生物が育まれた豊かな土壌で、季節の野菜を育てています。採れたての野菜は驚くほど甘く、新鮮さと有機野菜のうまみを実感できるはずです。
体験後は事務所に戻り、収穫したばかりの野菜を出荷するための作業を行います。てんとうむしばたけでは野菜セットとして出荷することが多いため、ひとつひとつ小分けにして袋詰めしていきます。大きさや形は不揃いですが、なるべく量が均等になるよう気を配ったり、最後の袋にはおまけが詰められたりと、あえて人の目や手が介在することで、野菜の到着を心待ちにしている生活者への心遣いを感じとることができます。
バックヤードでの作業は多くの方にとってブラックボックスであり、新鮮な体験となるでしょう。
体験のみならず代表の梅本さんやスタッフとの対話も、見どころのひとつ。
冬場は梅本さんが自宅でこしらえている納豆、味噌、麹など自家製の発酵食品の手入れを見学しながら、ふだんの食生活や健康との関連などについて会話が広がっていきます。
たとえば、農場のある弥栄町では、今でも共同で醤油をつくるコミュニティ(黒部醤油組合)が存在しているのだとか。食にまつわる長年の慣習や文化は、地域活動と密接につながっていることを示唆しています。
梅本さんや農園のスタッフとお話しをしたり作業を共にすると、つくづく「食べること」が私たちの健康の基礎にあることに、あらためて気づかされます。そして同時に、ふだんほとんど意識をしていないことにも。
自身の健康をつくり、組織やコミュニティの健康をつくり、関係性をもつくりだすもの。それは、企業にとっても自らのありようを見つめ直すきっかけとなりそうです。
ちなみに、最近は企業の訪問を受けることも増えているそう。
オーガニック野菜の市場の広がりや、長寿者の多い京丹後の食習慣の話など、食と健康にまつわるテーマにおいて、ぜひ関心のある話題をもって深い対話をお楽しみください。
ローカルならではのブランド牛を生み出すこだわりとは
午後からは、tangobarの関さん、杉本さんによる生産者の訪問へ。
tangobarは、京都北部・海の京都エリアにて、缶詰などの商品開発や、食の体験プログラムなどに取り組む事業者。「食べる人とつくる人の距離を近づける」ことをミッションに掲げ、地域の生産者や食に関心を持つ生活者との関係づくりに励んでいます。
本プログラムでは、京丹後が誇る希少な食の資源やそれを扱う生産者の元に、参加者を案内いただきます。農業、水産業など多様な選択肢のうち今回ご紹介をいただいたのが、「日本海牧場」さん。京丹後でブランド牛「京たんくろ和牛」を生産している事業者です。
「京たんくろ和牛」は、短角牛の母牛に黒毛和牛の種の掛け合わせから生まれます。赤みが美味しい短角牛と、脂身が美味しい黒毛和牛のハイブリッドで、京丹後産のブランド牛として近年注目を集めています。
海の見える山の斜面の牧草地を見学したのち、牛舎へと移動。地元でとれる飼料米に加え、発酵させた醤油粕や豆腐のおから、籾殻などを原料にしたこだわりの飼料づくりの様子を見学します。食品生産の過程で出る廃棄物を牛の生育のために取り入れ、地域内で循環を生み出しているようです。
ブランド牛の生産現場でも発酵の技術が活かされていることを知り、てんとうむしばたけさんでの発酵の学びと通ずる部分があることを、客観的に捉えることができます。
日本海の潮風にさらされた牧草と、こだわりの地元産原料の飼料、そして発酵技術によって、噛めば噛むほど濃厚な肉の旨みを感じられるブランド牛ができるのだそうです。
腸内環境と食習慣の関係性について学ぶ
続いて、宿泊施設「KISSUIEN Stay & Food」へ移動。
こちらでは、tangobarの関さんによる腸内細菌のレクチャーを受けます。
関さんはかつて管理栄養士として小学校に勤務していました。いわば、食と栄養の専門家です。
腸内細菌のことが解明されてきたのは、21世紀に入ってからのこと。100兆をはるかに超える無数の細菌は、大きく分けて「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種に大別され、食習慣によって大きくコンディションが変化します。腸内環境を整えるには、単純に善玉菌だけを増やせばよいということではなく、それぞれのバランスを保つことが重要だそうです。
関さんは、食習慣を通じた腸内環境の整え方をレクチャーしてくれます。
どんな習慣が腸内環境を悪化させるのか、どんな食品をどのように摂取すると健康を維持しやすくなるのか、など生活習慣の改善につながるヒントが盛りだくさんです。あらためて、いかに日々の食事が健康に直結しているかを理解できる貴重な機会です。ぜひ講座を直に受けて、個別具体的な疑問について対話をしたり、アドバイスを受けてみてください。
1日の体験を総ざらいする、京丹後の滋味を堪能するディナー
1日のプログラムのフィナーレを飾るのは「KISSUIEN Stay & Food」のディナーです。
農場で収穫した有機野菜や、日中に訪問する生産者の食材を使った、本プログラムに合わせた京丹後ならではの特別コースをアレンジして提供いただきます。
「KISSUIEN Stay & Food」は、京丹後市の中心部に位置する峰山エリアにある、京丹後を代表する宿泊施設です。最近では客室を全面的にリニューアル。その名が示すとおり、心地よく滞在できる空間や機能を追求するとともに、特に「食」の大切さにフォーカスしたホテルとして、多くの利用者に愛されています。
料理へのこだわりは、地元の旬の素材を扱うことと、素材に見合った丁寧な調理法。夕食・朝食ともに地域の特徴的な生産者から食材を仕入れ、京丹後の食の魅力を多面的に表現・発信しています。また、食べる人の健康を重視し、栄養バランスの良いメニューを手がけていることも特徴です。
このように料理に対する質を重んじる姿勢から、レストランは宿泊者のみならず地元に暮らす人たちにとっても親しまれています。
今回のプログラムでも、代表の田中槙太朗さんに関わっていただき、1日の体験を味わえる特別コースに仕立てていただくことになりました。メニューは、体験の内容や、季節によって変わります。ぜひ、ここでしか味わえない料理を楽しみながら、1日を振り返りましょう。
日常とは異なる環境で、一貫して「食べること」を見つめ直す本プログラム。生産の現場に触れ、食材の美味しさを引き出す料理を味わうことで、多くの方が自分自身の食習慣と健康について思いを馳せることになるでしょう。
そうして生まれた問題意識から、自社のスタッフ、あるいは同僚や家族の健康をどのように増進できるのか。まずは、参加できなかったほかの社員やご家族にも伝えていただき、「食べること」をみんなで考えてみてください。そして、本プログラムの体験をきっかけに、自社の経営環境をふまえた適切な方法を考え、できることから実践につなげてほしいと思います。
豊かな食の宝庫、京丹後でみなさんのご参加をお待ちしています。
文責:白井 洸祐(丹後リビングラボ/IDL)
参考)
経済産業省「健康経営の推進について」(2022年6月改訂版)
日経Gooday「長寿のまち・京丹後の「健康長寿の秘訣」を探る」
体験提供者

食育や、健康経営をはじめ、様々な分野の事業者さんと連携し、野菜のこと、土のことを知ってもらい、自然とつながる体験を多くの人に届けたいです。


ただの宿泊施設としてではなくて、色んな人が新しいなにかと繋がり、なにかが生まれる場所として思考を掻き巡らすような滞在拠点として活用していただければありがたいです。 循環の起点として連携させてください!