【体験コンテンツのご紹介01】モノのあり方とエコシステムを、楽しみながら考える? 「海洋ゴミは、ゴミなのか?」
大量生産、大量消費の20世紀を経て、いま世の中は持続可能な社会のあり方を模索しています。大量廃棄を見直すものづくりのあり方は、ますます企業に求められるでしょう。そんなこれからの時代に必要となるマインドセットを、身をもって学べる機会が、京丹後にあるんです。八隅孝治さん(丹後エクスペリエンス)と余根田直樹さんによる体験プログラムをご紹介します。
ビーチクリーンとPrecious Plasticという多彩な環境体験コンテンツ
日本海に面する京丹後市には、その海岸線に、多くの海洋ゴミが漂着しています。
八隅孝治さんは、京丹後市への移住後、地域おこし協力隊として働きながら、地域の海岸清掃(ビーチクリーン活動)に積極的に取り組んできました。次第に参加する人たちは増え、周囲の仲間のみならず、地域の方々も巻き込んでの一大イベントに発展していきます。
しかしながら、集めても集めても、流れ着くゴミの数々。
そして、集めたゴミをゴミ処理場に送り続けていることにも、疑問を感じはじめます。海洋ゴミは、その種類の多さや付着物の影響により埋め立てられるのですが、もうじき現在の埋立地も満杯になることがわかりました。そうすると、新たな山を切り崩さなければいけなくなり、現在の地域の自然環境も大きく変化してしまいます。
そうした問題意識から、八隅さんはこれまで、e-bikeと呼ばれるスポーツタイプの電動自転車を使った海岸ツアーを提供してきました。単なる地域探索ではなく、ビーチクリーン体験とワンセットで、身をもって環境問題に触れられるのが特徴のひとつ。今後はより地域を深く見てもらうために、徒歩でビーチ周辺のフィールドワークを実施していくそうです。
さらに、事務所ではLABO(工房)で「Precious Plustic(プレシャス・プラスチック)」と呼ばれる体験もできます。Precious Plusticは、リサイクルのための機械を自作し、その機械でプラスチック由来のプロダクトをつくりだすという、オランダ生まれのオープンソースのプロジェクト。丹後エクスペリエンスでは、コースターやスマホスタンド、容器などを、自分好みの色でつくることができます。
ちなみに、Precious Plusticは、まだ日本ではあまり実践例がありません。八隅さんは、国内で先行していた鹿児島県(ダイナミックラボ)まで通い、ノウハウや機械づくりを教わりました。以来、少しずつ新しい機能を持った機械を自作しており、いまや京丹後は日本でも数少ないPrecious Plusticが体験できる貴重なエリアのひとつとなっています。
本プログラムでは、フィールドワークとビーチクリーン、そしてPrecious Plastic、さらには後述するアートワークショップというさまざまな体験を通じて、ゴミと環境の問題やものづくりのこれからを考える機会を提供します。
【体験型学習プログラム「海洋ゴミは、ゴミなのか?」】
■想定する対象者
・企業所属のビジネスパーソン。特に、プロダクト開発やサービス開発事業者(事業部や研究開発部)
・子ども連れのご家族。子どもと一緒に、体験を通じて自然(ネイチャー)や環境負荷等に関する学びを深めたい方
■行程(参考)
-13:00 集合(丹後エクスペリエンス事務所)
-13:30 オリエンテーション
-15:00 フィールドワーク + ビーチクリーン活動
-16:00 Precious Plastic体験
-17:00 ワークショップ
※ご要望に応じて調整は可能です
※所要時間は3時間程度〜半日程度。周辺地域やビーチの探索がより楽しめる、最大1泊2日のプランもご調整可能です
■参考価格
8,000円〜/1人あたり(3時間程度のスタンダードなプランの場合)
■開催場所
京都府京丹後市網野町浅茂川272
丹後エクスペリエンス
■お問い合わせ
丹後リビングラボよりお問い合わせください
漂着物を素材と見立てて、活用のあり方を考える
本プログラムは、「海洋ゴミはゴミなのか?」という変わったタイトルがつけられています。これは、地元在住デザイナーの余根田直樹さんのひと言から生まれました。
余根田さんは、企業や地域の事業者からの依頼によってさまざまなクリエイティブを手がける傍ら、コーヒーかすを使った絵画などユニークなアート活動で次々と作品を制作しています。近年では、廃棄物を使った作品づくりや子どもたちとのワークショップイベントも開催しています。
その余根田さん、海岸に漂着するモノは素材の宝庫だと言います。
海洋ゴミは、漁業者の作業中に漂流してしまった漁網や仕掛け、航路や危険を示すのに海に浮かんでいる「ブイ」、医療用の注射器など、産業廃棄物が少なくありません。強度が高く、原型を留めているものも多くあります。
余根田さんは、こうしたモノを素材と見立てて、さまざまなアート作品を手がけています。 たとえば、今年に入ってスタートしたのは、漂着ブイを使った「ブイサインプロジェクト(buoy-sign project)」。その丸っこいシルエットにロゴなどのデザインを施し、看板のように活用することができます。京丹後に流れ着いたさまざまな形・色のブイを、それぞれの店舗や事業所のサインとして設置。その存在感ゆえに、将来的には、地域一円で特徴的なサインが楽しめるような、ユニークな景観づくりにつながっていく可能性を秘めています。
つまり、「海洋ゴミはゴミなのか?」ということ。
本プログラムでも、ビーチクリーン活動の傍ら、自分が惹かれるものを素材として持ち帰り、紹介し合ったり、表現してみるというアートワークショップが用意されています。
新たな着眼点を持つことで、自分を見つめ直したり、価値を捉え直す体験ができるのです。
持続不可能な現状を乗り越えるために
ゴミを適切に処理しさえすればいいのか──?
かつて八隅さんが身をもって感じた疑問は、決して八隅さんだけの、あるいは京丹後市だけに限られた問題ではありません。実際、環境省は、2021(令和3)年の「環境白書」にて、一般ごみの最終処分場は2020年度末時点で21.4年分しか保たないと発表しています。
また、前述したブイのように原型を留めたモノはごく一部。強度や耐性のないモノは長い漂流の末、分解されて粒子になります。5mm以下の微細なものはマイクロプラスチックと呼ばれますが、これらは生態系や環境にダメージを及ぼしています。生物が摂取し、食物連鎖の末、巡りめぐって人間に健康被害をもたらす恐れも指摘されています。
国際世論の高まりや新たな法制度、さらには消費者ニーズの高まりもあり、企業はよりエコロジカルで持続可能な経済活動に取り組みはじめています。しかしながら、どのように変化を起こしていくべきか、難しさを感じている生産現場も多いのではないでしょうか。
“なんとなく知っていた”持続不可能な現状にあらためて触れ、自由な発想で目の前のモノを扱うという、八隅さんと余根田さんによるプログラム「海洋ゴミは、ゴミなのか?」。生産のあり方や素材のあり方、使われ方に至るまで、つくり手としても使い手としても、自分自身を見直すきっかけを与えてくれます。また、八隅さんや余根田さんを交えて対話することで、彼らの問題意識や行動力にも、きっと突き動かされるはずです。
まずは、身をもって知り、先入観を取り払うところから。これからのモノ(づくり)のあり方とオルタナティブなしくみの可能性を、豊かな体験と対話を通じて考えてみてはいかがでしょうか。
文責:白井 洸祐(丹後リビングラボ/IDL)
参考)環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21020301.html