【ANAあきんど×京丹後】海ゴミ問題の「学び」をテーマに、社員対象のスタディケーションを共創!
– 丹後ビジネスコラボ Case 04 –
丹後リビングラボが市内の事業者やプレイヤー、行政等と協働してテレワーク・ワーケーションプログラムを展開することで生まれた、「市外事業者×京丹後」の共創事例をご紹介する記事シリーズ。第4回はANAグループと共に生み出した、「企業社員が丹後で社会課題を探究するスタディケーションツーリズム創出」の事例です。
WHY京丹後?|社員に地域を知ってもらいたいという想いから
2023年の5月頃〜10月にかけて行った今回の共創プロジェクトは、丹後リビングラボと、京丹後市観光公社、そしてANAグループのANAあきんど株式会社地域創生部の三者が連携して企画しました。
ANAあきんど株式会社は、これまでANAグループが主軸の事業として行ってきた人や物の輸送から社会的な課題解決ニーズにもう一歩踏み込み、地域が抱えるさまざまな課題に一緒に取り組んで、地域の活性化に貢献しようとしている会社です。
そのチャレンジの一つとして、ANAあきんどから出向し、京丹後市観光公社(正式名称:一般社団法人 京都府北部地域連携都市圏振興社 京丹後地域本部)のメンバーとして、丹後に住みながら地域密着の活動をされているのが村上将朗さん。村上さんと丹後リビングラボは、これまでも協力し合いながらツアーやイベントを企画し、丹後を訪れるお客様に地域の魅力を伝えてきました。
こうした村上さんとの活動も約3年が経ち、京丹後の活性化につながる新たなアプローチを一緒に検討する中で、今までB to C、つまり個人のお客様に向けた企画が多かったのを、B to B、企業にも目を向けてみようという話になりました。丹後外の多様な企業がこの地域の課題を知り、関わりを持ってくれることで、解決への道が見えてくることも大いに期待できます。
「ANAあきんどが、地域に貢献する事業としてどのようなことを本領としていくのか、まだまだ手探りしながら進んでいます。そのような中で、地域と事業を生み出したいなら、まずは一人でも多くの社員やその周りの人に地域のことを知ってもらいたいという気持ちから、私は地域側の仲間に入れさせていただきながら、東京のANAあきんど地域創生部にいるメンバーと一緒に、初めて社内へ向けた取り組みをしたのが今回です」と村上さん。
そうは言っても、関東圏ではまだまだ馴染みが薄く距離も遠い丹後に、いきなり社員の方々に来ていただくのはハードルが高そう。そこで企画したのが、羽田空港を会場に「丹後の地域課題である“海ゴミ”について知っていただく」レクチャーイベント。社会課題の学びを入口に丹後を知っていただき、関心を深めていただいてから現地ツアーを開催しようという組み立てです。この企画を5月のGW明けに初めて相談したにも関わらず、地域創生部の方々がすぐに動いてくださり、レクチャーイベントは6月に開催する運びとなりました。
HOW京丹後?|共創その① ANAグループ社員が丹後の海ゴミ問題を知るレクチャー&交流イベント開催!
6月16日、羽田空港第一ターミナルの一角に会場を設置し、整備士の方や地上勤務のスタッフの方、営業の方といったANAグループ社員の皆さんに、現地およびZoomで参加していただき、イベントを開催しました。
登壇者として、京都市から丹後に地域おこし協力隊として移住し、ビーチクリーンや海ゴミ問題の啓発活動・資源化を行っている丹後エクスペリエンス代表の八隅孝治さん(愛称:やっさん)を羽田空港に迎え、再生プラによるオリジナルプロダクトも展示したこのイベント。会場には30人余りのANAグループ社員の方々が参加し、Zoomでも約40名の社員の方々に熱心に視聴していただき、予想を上回る反響をいただきました。
レクチャー終了後の交流タイムでは、展示していた「Precious Plastics」の製品にも多くの社員さんが注目し、コースターやキーホルダー、アクセサリーなどを手に取り、八隅さんに質問しながら丹後への関心を深めていました。当日の会場運営も一緒に行った地域創生部の方々からは、こんな感想をいただいています。
「こうしてアップサイクルされた物を使うことで“環境や地域に良いことをした”と思えます。こんなにきれいな製品でそれが伝わる所が素晴らしい。同時に、八隅さんのような熱意のある人が丹後にいるということが、多くの社員の心に響いたのではないでしょうか。海ゴミは他の海岸にもあるかもしれませんが、“八隅さんのいる丹後に会いに行きたい!”という気持ちになった人が多かったように思います」
HOW京丹後?|共創その② ANAグループ社員とその家族が、丹後の海で学ぶスタディケーションプログラムに参加!
羽田空港でのイベントを経て丹後への関心が高まった所で、ANAグループ社員に向けて丹後現地ツアーを企画し、地域創生部からの社内発信で参加者を募集していただきました。
イベントで登壇した丹後エクスペリエンス代表の八隅さんに「現地で会いたい!」との声が多かったことを受け、2泊3日のツアー内容は、八隅さんと一緒に丹後の海でビーチクリーンをしたり、工房で再生プラによる製品づくり体験を行ったりしながら、海ゴミ問題をさらに深く探究するプログラムを軸に、丹後ちりめんなどの地域の産業・歴史の学習や、丹後の健康的な食とアクティビティを生かして企業の健康経営に役立つヘルスツーリズムの可能性も感じていただくという充実の構成。地域創生部の方々が募集の際に施した工夫が大きな効果を発揮し、予想以上にスムーズに参加者が集まりました。その工夫とは?
「単純に“海の京都に来ませんか?”ではなく、どんなことが学べるツアーなのかという“学び”にフォーカスした訴求を行いました。八隅さんにもご協力いただき、海ゴミ問題の導入部のお話を動画に撮っていただき募集サイトで流しました。その結果、普段は行き先でツアーを選ぶ人が多いのですが、今回はスタディケーションだからこそ参加したいという意欲的な人が集まったと思います」
参加者はANAグループ社員とそのご家族の方々からなる総勢20名。手配した貸切バスの最大収容人数での催行となりました。
【ANAグループスタディケーション共創ツアー 2泊3日スケジュール概要】
*羽田−伊丹は航空機にて移動、伊丹空港より貸切バスにて丹後入り
●1日目
・13:00 丹後到着
・八丁浜でビーチクリーン
・丹後エクスペリエンス Precious Plastics工房見学
・茜屋 丹後ちりめんハンカチ染色体験
・各自の宿泊施設へ
●2日目
・MOYAKO Beach Cleanupに参加
(*丹後エクスペリエンスが継続開催している、地域の人と一緒に行うビーチクリーン)
・てんとうむしばたけの有機野菜ランチBOXでランチ
・京丹後市観光公社 健康トレイルウォーク
・琴引浜 鳴き砂体験
・夕日ヶ浦浜詰 散策
・各自の宿泊施設へ
●3日目
・かぶと山ハイキング
・豪商稲葉本家見学
・かぶと山虹の家 学びを振り返るワークショップ
・ランチ後、伊丹空港へ
ツアー3日目には、体験したことへの思考や学びを深めていただくために、ふり返りのワークショップを実施。地域側の代表として丹後リビングラボの長瀬がファシリテーターを務め、地域側の思い、都市部の企業目線で思うこと、その間に見える共創の可能性の意見交換をし、お互いに刺激し合えた貴重な時間となりました。
参加してくださったANAグループ社員とそのご家族の皆さまからは、こんな声をいただくことができました。
1)今回のスタディケーションプログラムで印象に残ったこと
・海ゴミに対する見方が変わった。一刻も早く取り組まないと危機的な状況だと感じた。自分には何ができるか、海に行かなくてもできることはないかを考え、自分からも発信していきたい。
・自分にも息子が生まれたので、やっさんの「次の世代にも安心して楽しめる海を残したい」との言葉に共感。会社の他の社員も集めて京丹後にビーチクリーンに行きたい。
・東京で生まれ育ったため「第二の故郷」をずっと探してきたが、丹後はその一つになった。第二の故郷になる地域の特徴は「もう一度会いたいと思う人がいるか」。やっさんはその一人だと感じた。
・地域創生では、やっさんのように「この人についていきたい」と思われる人柄が重要だと感じた。自分もANA内で「丹後アンバサダー」として活動したくなった。
・やっさんのプログラムは丹後から帰った後も飲み会の話題にしたくなるような、多くの人に共有したい内容。地域の財産であるこのような人が活躍している丹後は、企業として訪れる価値がある。
2)(丹後を応援するために)明日からこんな一歩を踏み出したい
・家族に伝えたい。年に1回以上、家族や友人たちと丹後に来たい
・山や海には必ずゴミ袋を持参する
・社内でビーチクリーンを広めたい
・社外の連携会社にも今回の体験を広めたい
・ANAと丹後が今後もどのようにつながっていけるのか、引き続き考えたい
丹後のキーマンと共に、現地で自分自身が海ゴミを拾いながら丹後の課題を考えた経験は、社員の方々の「地域課題やサステナビリティの自分事化」「企業としての地域創生事業のつくり方の糸口発見」につながったようです。
また、今回のツアーを一緒に主催した地域創生部の方に終了後の感想を尋ねると、
「私自身が関西出身にも関わらず、丹後を訪れたのは実は初めてでした。でも一度行ってみるととても好きな場所になり、地酒や米俵まで買って帰ったほど。今回のツアー参加者は海ゴミの探究を目的に参加された方がほとんどで、雨が降り始めても海ゴミを拾い続けている姿や、“もっと拾いたかった”とのお声、お食事中もずっと真剣に海ゴミ問題について話し合われていた姿が印象的でした。テーマを持って地域に来ると、こんなに地域の課題を考えることができるんだという大きな発見でした。海ゴミ以外にも、丹後には文化や歴史など観光素材も豊富にあり、参加した多くの方にとって、また訪れたい地域になったのではないかと思います」
WHAT京丹後?|今後の共創の可能性
その後、参加したANAグループ社員の皆さまの中でも、石垣島ご出身の方が八隅さんとオンラインで海ゴミ問題について意見交換を行ったり、馴染みの居酒屋で小さな規模でも丹後の食を楽しむイベントを実施したりと、スタディケーションだけに終わらない動きが出ているそうです。
地域創生部の方は、今後に向けてこんな課題や取り組みを見つめていらっしゃいました。
「今回のスタディケーションは、“人に始まり、人に終わった”の一言に尽きます。羽田空港のイベントで地域の魅力的な人との出会いがあり、その人に会うことをモチベーションに参加者が現地へ足を運んだ。こうした地域のキーパーソンとの出会いは、なかなか個人でつくることは難しいと思うので、プログラムとしてそのような人に会えるというのも大きな価値だと感じています。やはり声を出し続けないとつながりは薄れていくと思うので、また別の時期にテーマや切り口を変えて丹後の訴求は続けていきたい。小さな輪からでも広げていきたいと思っています」
そして、今回は地域側のメンバーとして一緒にこのプロジェクトをつくり出した、ANAあきんど株式会社の社員であり、京丹後市観光公社のメンバーである村上さんは、
「最終的には社員の皆さんに丹後に来てもらって、地域の魅力を自分自身で体感していただきたいという丹後側の想いに、地域創生部のメンバーが気づいてくれて、私たちの期待をはるかに上回る動きや発信をしてくれました。イベントやスタディケーションの参加者も含め、社内にこんなに感受性の高い人たちがたくさんいるんだということが、私自身の大きな励みになりましたし、主催側の人間も率先して楽しむことの重要性を味わえたことが収穫です」
遠くに感じていた企業の方々と丹後が、社会や地域の課題と、魅力的なプレーヤーを入り口に、心理的にも物理的にもグッと距離を縮めることができた今回のプロジェクト。丹後リビングラボとしても、丹後の持つ資産に「学び」や「健康経営」などの軸を通すことで新たな価値を生み出せること、そして地域プレーヤーとの連携の重要性を再確認できた機会となりました。
今後もお互いの日々の中に起こる変化とネクストアクションに大いに期待しつつ、丹後リビングラボも村上さんやANAグループさんと共に新たなストーリーを考え、東京(や各地)と丹後を結ぶ仕掛けを積極的につくっていきたいと思います!
Writer & Editor|森田 マイコ
企業でのマーケティングや広報の経験を生かした、人を動かす記事づくりが信条。多くの地域や分野を横断しながら、社会がどこに向かっていくのか探究中。趣味は旅。